最近身近にいる化学を専門とする大学の先生と研究室内の掃除をすることになりました。

その時に先生が水銀の温度計を見つけ、 

「 水銀の温度計か。。危ないから処理しようか

と言っていました。


しかし、本当に水銀は危険なのでしょうか。


実は様々なサイトで体温計に使われている水銀は金属水銀なので、安全であると言われています。1)

その一方で、有機水銀はかつての水俣病などの原因物質と考えられ、危険であると言われています。2) 

つまり危険なのは有機水銀で、水銀温度計はそれほど危険なものでもないのです。

ここで、先生の言っている「水銀の温度計は危ない」は間違っていると判明したけど、
この二つは何が違うのでしょうか。なぜ毒性に違いがあるのでしょうか。


まず金属水銀から見ていきましょう。
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出典 : https://ja.wikipedia.org/wiki/イオン化エネルギー

水銀は常温で液体で存在する金属です(融点-38.83℃、沸点356.73 °C)。1)

またイオン化エネルギーは、水銀は比較的高いことがわかります。3)
(イオン化エネルギーとは、金属がイオンになって水に溶けるために必要なエネルギーです。つまり高いほど水に溶けにくいことを意味します)


次に有機水銀を見ていきましょう。
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水俣病の原因物質と考えられているのはメチル水銀で、左のような構造式をしています。
なんと驚くことにメチル水銀はもうすでにイオンになっています(Hgにプラスがついている)。
よって非常によく水に溶けます


そして水に溶ける溶けないが毒性に非常に関係あります!


これら毒物を口から摂取したときに、もし毒物が水に溶ける場合、消化される過程で消化器官から吸収されて様々な臓器に運搬されて毒性を発揮します。
メチル水銀は消化管から95%以上の効率で吸収されます4)


一方で水に溶けない場合、消化されることなく、ただ体内から排出されます(食物繊維のイメージですかね)。
金属水銀の吸収効率は0.01%以下と言われています4)
イオン化エネルギーが高いために、胃の中の塩酸に溶けることもほぼないんです5)
(硝酸には溶けるようです)

このように一見毒物の水銀でも、金属水銀の場合は水に溶けないために毒性があまり高くないんです!

つまり体内に吸収されなければ、毒物でも怖くないということですね。

それでは今回はここまで。


参考文献
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/水銀
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/メチル水銀
3) https://ja.wikipedia.org/wiki/イオン化エネルギー
4) 小城勝相著、「体の中の異物「毒」の科学」、2016年発行
5) https://www.sci.niihama-nct.ac.jp/PeriodicTable/elements/80.html